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☆☆☆+ 春江 一也『プラハの春』

プラハの春〈上〉
春江 一也 / 集英社
ISBN : 408747173X


 現役外交官が自らの実体験を元に、1960年代後半のチェコスロバキア民主化運動を描く。外交官という立場から眺めた世界は新鮮。そして登場人物一人一人が強烈な存在感をもつ。作者のこめる思いの強さが感じられる。恋愛小説というよりも歴史小説として評価されるべき作品だが、キャラクターの重みゆえに単なる歴史小説にとどまらない迫力がある。作者の本業ではない。当然、目に付くところは少なく無い。だがそれを斟酌してもこの作品を見ると、作中のような特殊な場合を除き、外交官がいかに暇であるかが窺い知れる。

 読んでいて痛切に感じられるのは個人の無力さだ。誰も歴史という大河に立ち向かえはしない。個人の行動は大河に一本の杭を打ち込むかのようなものでしかない。それを承知で自らの命を賭して生きた人々の姿は感動的である。歴史はその一本の積み重ねである。だが、同時にある種の諦念を感じずにはいられない。個人は大河全体を見渡すことはできないし、過ぎ去った流れは決して後戻りしない。個人の不幸があり、歴史の事実がある。

 来月、ウィーンを出発点として、この小説の舞台となったプラハにいく(この寒い時期に・・・)。作品中でも何度か言われている通りチェコは言葉の民である。古くはカフカ、チャペック、ハシェクがおり、最近では『存在の耐えられない軽さ』のミラン・クンデラがいる。この機会にすこし東欧の文学に触れようと思っている。
by gogayuma | 2005-01-22 04:43 | 文芸/日本現代
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