☆☆☆ W・Sモーム『女ごころ』サマセット・モーム(新潮文庫 龍口直太郎訳)

女ごころ
モーム 竜口 直太郎 William Somerset Maugham / 新潮社
ISBN : 4102130063


 モーム六十七歳の時の作品。凝縮されテンポがいい。それでいて深さを備えているところがモームの妙味であるが、真実のあり方と女ごころの動きとの対照が面白い。

 夫に先立たれた主人公のメアリイは最初ある男に求婚される。エドガーという旧知の仲の将来も安泰な出世頭の役人であり、メアリイもその気になる。それからとあるパーティーで知り合った放蕩児のようなロウリイにも求婚される。帰り道にパーティーでバイオリンを弾いていた貧相な男を目にし哀れみを感じて自宅に入れてやり男にとって人生最高という一夜を明かすが、別れ際にメアリイが結婚するつもりでいることを話すと男は逆上してその場でピストル自殺をする。他人に気づかれては身の破滅だということに気づいたメアリイは出張していたエドガーではなくロウリイに助けを求める。男は機転を利かして事態を切り抜け、このことは心に秘めておけと言う。だがメアリイはエドガーにすべてを告白した上でエドガーの求婚を断り、ロウリイに惹かれてゆく。こんなストーリーである。

 序盤はピストルが小道具として緊張感を生み中盤では死体運びがスリリングに描かれる。終盤ではモームの人生観がロウリイの口によって語られる。メアリイの嘘をつけない弱さと冷静だが社会や道徳に縛られない人生観を持つロウリイの強さ。この二人がどういうわけかお互いに心から惹かれあうという矛盾した構図がモームらしく、そこに真実味がある。
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by gogayuma | 2005-01-22 04:40 |    ∟W.S.モーム
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